『シャイニング』

ご無沙汰ですが、皆さまご無事でしょうか? ニュースばかり追って圧倒されたり怒ったりしつつ仕事もあまり手につかなかったりもしましたが、しばらく連絡の取れていなかった人が元気そうでほっとしたり。忙しくてさぼっていたフランス語のリハビリのつもりで「旅するフランス語」を見始めて少し癒されています。自分が外に出られないから、フランスの街を歩いているのを眺めているだけでも楽しくて。とにかくご無事でいて下さいませ。


『シャイニング』上下 The Shining(スティーヴン・キング Stephen King 深町眞理子・訳 文春文庫)

たぶん読んでいなかったので。それから、映画もまだ見ていなかったから見た。後で作られたドラマ版の方だけ昔に見ている。

これも閉じ込められる話だから、今読むのにちょうどいいかな、と読み始めたものの、家に居ろと言われている時に家(ホテルだけど)の中にも危険があるなんて逃げ場が無いし、全然良くなかったのでは。ドラマを見たといっても昔のことですっかり忘れてしまっていて、でも続編があることだけは知っていたから、息子は死なないんだよね、って少し安心して読めた。絨毯の模様が映画とは全然違うのね。父親ジャック・トランスの一人称の部分は、『ローズ・マダー』の時のように生々しくて精神的にくるものがあって辛かった。ダニーとハローランとの繋がりの部分など、なんだか記憶の奥にあったような気がして、もしかして読んでいたのか。

 

読み終えてから、キューブリックの映画の方も見た。キューブリックって合わないというのか、『博士の異常な愛情』も『時計じかけのオレンジ』も好きじゃないし、2001年は宇宙に行く前しか見ていない(「その後すぐに宇宙へ行くから」って友人に呆れられた)。それからジャック・ニコルソンの演技が苦手。これを見て彼はやっぱり好きじゃないと思った。そんなふうで、よく引用もされるし見ておかねばと思いつつも、なんとなく機会がなかった。名場面集や引用、パロディ等で色々目にしているせいか、これも実は昔にTVか何かで見ているのかも、という気になる。このような理由で昔の名作と言われるものを見た時に新鮮さや驚きがないのは、なんだか悲しいことのような気がする。

ホテルのトイレと浴室が、建物の他の部分とは全然違う場所のような異質さなのは面白い。建物は良かった。本を読んだ人は大抵言うのかもしれないけれど、ジャック・ニコルソンは原作のイメージとは違うし、ハローランがスプラッタ―映画によくあるような助けに来たと思ったらあっさりやられちゃう人のような扱いなのは悲しい。見ている方からすると息子もかなり怖い。ウェンディのナイフを握りしめて動き回る姿は、「女子ってこういう走り方するでしょう」とふざけている人を思い出させて、なんだかイラっとした。たぶん演じている人は全く悪くない。原作ではジャックがホテルの管理の仕事もしているし自分の暴力に対する自覚や葛藤もあったのに、映画ではウェンディがボイラーを見ていたし、ジャック・ニコルソンはただのだめな夫に見えてしまい何をそんなに偉そうにしているのだとむかついた。
『ミッド・サマー』の時も気になったのは、老いた、または若くない女性の裸を恐怖として、下手すると笑えるもののように扱うのは、今見ると気持ち悪い。作り手にその意図が無かったとしても見る側の多くにそう刷り込まれているでしょう。若い女性だと思った人を近くでよくよく見ると実は若くなかったということを笑える話のように語られるのを何度見かけたか。老いた男性の裸が恐怖なのって、何かあったっけ? といってみて、『哭声 コクソン』を思い出した。あれは面白かった。『アメリカン・サイコ』の裸にチェーンソーは、凶器持ってるし若いから違うな。

「All work and no play makes Jack a dull boy.」はるか昔に暗記させられた。勉強って大事なんだね。

原作のジャックに口を拭う癖があり、その描写の度に「顔を触らない! 触らないで!」って条件反射的に叫びそうになって、なんだかあたし、まずくないかと思っていたのだけれど、とうとう別の映画を見ていても、トイレに顔を突っ込んで嘔吐する場面で、「便座に置いた手で髪をかき上げないでー」とか、床に座らないでー、とかなってきた。そのうちキスシーンでも「マスクしてー」とか、「その前に検査しようよ」って言い出すのかもしれない。辛い。創作物の中のコロナの時代の恋愛ってどうなるのだろう。離婚とか関係のが終わっていくのは普通に色々と想像できるから、出会って盛り上がっていく方で。日本の学生さんとかどうなるのだろうってもうずっと心配だし、それどころでは全然なさそうだけれど、現実でもどうなのか気になる。2000年代半ばくらいか、フランスが舞台の小説と映画で、パートナーになる時に一緒にHIVの検査に行くというのがあったのを思い出す。

 

読んだのは旧装幀のもの

新装版 シャイニング (上) (文春文庫)

新装版 シャイニング (上) (文春文庫)

 
新装版 シャイニング (下) (文春文庫)

新装版 シャイニング (下) (文春文庫)