『パリの秘密』

『パリの秘密』(鹿島茂 中央公論新社)を、パリに行く前に読み終えた。「パゴダ、面妖な『擬和風』」の章を読んで、そういえばパリに行きたかった映画館があったのだ、と思い出して実際に行ってきた。読まなかったら忘れていた可能性も高く、本当に感謝。それにしても、この「仏塔」という意味の言葉、英語では「pagoda」でも、仏語では「pagode」、映画館は「LA PAGODE」なので、カタカナで書くと「パゴドゥ」とか「パゴド」なんだと思っていたのだけれど、どうなのでしょう? 現地の人はどう呼んでいるの? ついでに白状すると、この「パゴダ」って言葉、知らなかった。この章を今読み返したら、ロダン美術館を見学したあとで歩いていたらこの映画館が目に入った、とあり、あたしもロダン美術館に行ったあとに行ったので「同じだー!」と喜んでみたものの、考えたら他に行くようなところのない地域だった気もする。
読むだけでも楽しいし、イラストはあっても写真のない、文章だけで表現された所って、実際に行ってみたくなる。「中国からの“異物”」と「お姫様の小さな塔」は時間の余裕がなくて諦めたけれど探してみたかった。
今気付いたのは、上にパラパラ漫画が。
パリの秘密

UN SECRET

そんなわけで(上を読んでね)パリのLA PAGODEっていう映画館に行って「UN SECRET」(監督:CLAUDE MILLER)を見た。このクロード・ミレールって人、思い出せなくて調べたら「なまいきシャルロット」や「小さな泥棒」の監督。皆に、内容を理解できたのかときかれたけれど、仏語のほとんどできない人間にもだいたいわかったつもりになれるような、わかりやすい話の進み方だった。けっこう面白い。エマニュエル・ベアールリュディヴィーヌ・サニエマチュー・アマルリックなど、出演者が楽しい。ぞくっとするような美少年が、その後マチュー・アマルリックに、というのは納得するような、興味深いような。現在がモノクロ、過去がカラーって、他にもよくありそうだけれど、化け猫の映画にそんなのがあった気がする。日本で公開されたら、また見なくては。

さて、パリ行き直前まで忘れていたとはいえ、以前から一度行ってみたいといっていたLA PAGODEという映画館、「パリの日光東照宮」ともいわれた、バロックで豪華絢爛な建物、ということで行く前から血が騒いだ。期待で胸がいっぱいで苦しくなりつつ、着いてみると開館前で、閉ざされた門から中庭をのぞくと、本当に石灯籠があった。ただ、建物はというと、老朽化が進んで危険なのか直しているのか、ほとんどが白っぽいネットで覆われ、植物に覆われて見られない。藤森センセの屋根に何かが植わっているとか、フンデルトヴァッサーの植物との共生とかでなく、もう植物に侵略されたような風情。時刻を調べていったのにもかかわらず、廃墟なんじゃないかと思ったほど。少し後でやってきたガイドブックを持ったような外国人の男性も、ちらちらっと見てから、どこかへ行ってしまった。
少し待ったら人も集まってきて無事に入る。「Salle japonaise」という劇場は、薄暗くてはっきりとは分からないけれど、壁(たぶん刺繍だった)も天井も絵や模様で埋め尽くされ、金色の鶴が飛び、夢のような空間。故郷に帰ったような幸福感。面白かったのは、普通映画館って、後ろにいくに従ってだんだん床が高くなっているのに、ここはだんだん低くなっていた。椅子の背もたれが普通より後ろへ倒れるので、前のスクリーンを見上げる感じ。
建物の外側もあまりきちんと見られなかったけれど、和風なステンドグラスのようなものがあったり、蟹や鳥や男が浮き彫りになっていたり、すごかった。きちんと修復されてネットが外されると良いなあ。パリに住んでいたら、プログラムごとに通いたい。