『パターソン』

『パターソン』Paterson(ジム・ジャームッシュ Jim Jarmusch)
ジャームッシュの作品だ、ということを絶えず自分に言い聞かせていても、主人公が週末あたりに妻を殺して埋めるのでは、バスごと人混みに突っ込むのでは(あんまり人混みって無さそうだったっけ)、と緊張し続けて疲れて、見終わった頃には本当にぐったり。
主人公が自分の思ったことを口にしなくても、映画を見ている側には、表情やちょっとした動作で伝わるものがあるし、一人で歩いている時の音楽とか、すごく不穏な空気が。食事にもわりとわかりやすく表れていたし。けっこう大柄な主人公の朝食と昼食、あれでは必要なカロリーが取れていないのでは、見えていな部分でハンバーガーとか食べているのだろうか、毎晩のビールも必要なエネルギーの摂取なのか、とか気になって。ランチボックスの写真にも、「ああ、こういうの、付き合っている時は『かわいい』って言っていたくせに、一緒に暮らしてしばらくして突然『こんなものより、肉入れろよ、もっと』みたいなこと言う人、知ってる。妻、逃げてー!!」と、暴走し始めたあたしの中の一部のために胃がキリキリする感じで、最後まで精神がもたない。ついでに書くと、この妻の料理の味は結構良いような気がしている。
家の内装も、パターソンが一人で住んでいた家に、突然ある日、空から降ってきたか海からやってきたと言われてもあまり驚かないような妻が来て、パターソンのカラフルな世界が、モノトーンのパターンに侵されていくようにも見える。
失恋した男や永瀬との会話は、あの空気がリアルな感じで好きなのだけれど、あれもちょっと殺るか殺られるかっぽくもあるような。
カップルの二人が魅力的。パターソン役の人、たぶん初めて見るのかな、他の出演したものも見たい。
スリリングですごく面白い作品。ちょっとアキ・カウリスマキっぽいなと思った。

夏が終わって、というのか、9月に入ってから、この夏一度もラタトゥイユを作って食べていないということに気付いて、それは浴衣を着なかったことよりもショックだった。うちのシェフが煮た野菜を好きでないからなのだけれど、シェフが食欲無い何も食べたくないという日に嬉々としてラタトゥイユを作ってパスタと食べていたら、変な顔をされたから「『パターソン』の妻の作る料理って、たぶんこんな感じだよ」と言った。ラタトゥイユ、美味しかった。


ニュースを見ると辛くなることが多いし、仕事の締切は迫っているし、現実逃避したい。