『昔日の客』

『昔日の客』(関口良雄 夏葉社)
以前読んだ『石神井書林日録』でちらっと名まえだけ憶えていた人の本が復刊されたというので買ってあったのを、やっと。ここに書かれている正宗白鳥が良い。署名した本を「僕は字が下手だがこれでいいかね」と言って手渡したというところで、吹き出した。正宗白鳥の著作をほとんど読んだことがないのだけれど、草稿は目にしたことがあり、本当に笑ってしまうくらい下手な字だった。筆圧強くしっかりと書かれ、達筆過ぎて読めない字とは違い、読みやすいといえば読みやすい。書かれていることも面白かったし、なんとも味のある、ちょっと強烈な印象を残す字で、なんだか知らない人だけれどこの人好きだなと思わせる字だった。一般的に字がきれいだと「頭良さそう」「きちんとした人」という印象があるけれど、「本当に頭の良い人って、意外と字の汚い人がいるよ」といわれた。
かわいらしい字を書く人として、すぐに浮かぶのは澁澤龍彦瀧口修造の字も、ちまっとしてかわいかったかなあ。寺山修司の直線だけで構成されたような字も眺めていて楽しい。金子國義美輪明宏の署名は流れるようなきれいな字。谷崎潤一郎の字は達筆で読めなかった。ほかは今すぐに思い出せないけれど、人の書いた字を眺めるのはわりと好き。
昔日の客