『ミッドサマー』と『へレディタリー』

へレディタリー/継承』Hereditary(アリ・アスター Ari Aster)
『ミッドサマー』Midsommar

これから何も知らない状態で見たいのなら読まない方が良いです。最初に書いておくと、この2作品、あたしには合わなかった。

 

 

『へレディタリー』も公開時に気になっていたものの、「見たければ一人で好きに行きたまえ」といわれ、怖がりだし一人で暗闇で見たら、終わって劇場内が明るくなる頃には総白髪で口から泡出して死んでいるかもと諦めた。『ミッドサマー』はなぜか一緒に行ってもらえることになり、その直前に『へレディタリー』も見て予習しておいた。明るい部屋で向かいには人もいる中、小さなパソコンの画面で見ていたので余裕。特にホラー映画にこのような環境で見て何か言うのは反則のような気もするけれど、人が燃えたり天井にはりついたりしている辺りからしらけてどうでも良くなってきた。終わってから、この監督は苦手かもしれないと思った。気になったのは、遺品の箱から出してきた本の真新しい感じ。現在使われていたものなのだし、魔術や宗教の本だからと突然古文書のようなものを出さなくても良いけれど、違和感があった。登場人物の衣装は普段何度も着られたような馴染んだ様子だったので、余計にかもしれない。

どちらも、重苦しい人間ドラマから天地反転した映像を挟んでオカルトへ、という流れは同じ。

『ミッドサマー』は予告を見た時に『ウィッカーマン』じゃんと言いつつも何かひねりとかあるのだろうと思っていたら、普通に『ウィッカーマン』だった。
なんというのか、ジャングルの奥地へ少数部族の調査に行った学生が捕まって生贄にされる映画なんて今ではなかなか作られないと思うのに、スウェーデンなら良いのか? スウェーデンが先進国だという前提があるから? というのは見る前から気になっていた。そして劇中にはそれ以外にも引っかかる表現がいくつかあった。
ストーリーが最後の笑顔まで見る側の想像できる通りに進んでいって驚きが無い。複雑でないよくある物語でも良いものは良いけれど、無駄にスローモーションを使った思わせぶりで退屈な映画を見ている時のような気分。絵的にも木の脈打つ感じは良かったものの、ホルガ内で起こる事の描写に驚きが無い。長い。このストーリーなら1時間40分以内くらいでおさめてほしいと話していたら、ディレクターズ・カット版がもっと長いなんて。

『へレディタリー』に出てくる本が新しいと書いたけれど、『ミッドサマー』もそう。90年に1度のお祭りといって伝統がありそうなのに、本も、血をなすりつける岩も、建物の内部に描かれた絵も、その他いろいろなものが皆新しそう。祭りのために新調したのかもしれないけれど、ホルガの人が着ている服もおろしたてのようだった。作り物っぽさを出すために意図的なのかもしれないけれど、オカルト周りの表現に関して雑というか浅いようにも感じられてしまう。

90年前に使われたものなど残っていなくて、色々と新たに作ったとしても別に良い。祭りの無い年に72を迎えた人はどうなるの? そんな集団で90年前の祭りのことなんて誰も知らないのでは? あの集団、普段の収入について語る場面もあったものの、生活感がまるで無い。白い服も全く汚れなさそう。寝泊まりする建物もスウェーデンでは夏以外住むのは無理じゃないか。あの場所は祭りのためだけに作られた所で、生活する場所が別にあるのかしら。あの人々の笑顔を思い出すと、労働とか日常生活が無くて毎日が祭りなら、そりゃあ楽しいかもしれないよね、とは思う。ホルガの人々って、90年に1度の祭りというのを全てでっち上げた新興のカルトのように見える。一緒に見た人には、あそこに教祖が居ないのが不思議、大抵のカルトにはカリスマ性のある教祖が居るし、そうでないと続かないというようなことを言われた。景色が良くてもあんな娯楽も少なそうな退屈そうなところ、若い時に一度外へ出たら二度と帰りたくないけれど。変なところが多くて、日をおいても色々と喋りたくなる映画ではある。

最後に菊人形のようにされていた人も、あの後、燃やされたり首を落とされたりしそう。

カルト映画を狙って作られたような映画が好きではなくて、これもあざとさなどを感じるから嫌なのだと思う。あまり面白くない悪ふざけに付き合わされているような感じ。それから、2作品とも女性の表現に悪意のようなものを感じる。

学生の頃、自治会(なぜかやらされていた)で新興宗教の勧誘から新入生を守るための注意喚起をするよう求められたのを思い出した。親許を離れて一人暮らしを始めたばかりの、まだ友達もそんなにできていない人が狙われて、夏休みが終わっても大学に出てこなくなってしまう人が毎年何人もいると聞かされたけれど、実際のところはよく知らない。こういうの、世界中どこでも一緒なのだなあと思った。本人にとっては、やっと自分の居場所を見つけたと感じるのだろうし、どうしたらよいのか分からない。

それから、あたし、たぶん祭りが好きじゃないのだと気付いた。屋台の夜店にノスタルジーを感じることもないし、子どもの頃に近所のお祭りに駆り出されるのが本当にいやだった。今はお祭りではないけれど、一人暮らしの時はそんなことは考えたこともなくて気楽だったのに、二人で暮らしたとたんに町内会費を徴収されゴミ捨て場の当番など回ってきて、そんなことでも面倒臭いと思うのに、毎日近所の人と一緒に集団生活でずっと祭りに付き合わされるなんて吐きそう。あの明るい笑顔の人たちに抱く感情ってこれに関係があるのかもしれない。