『百蟲譜』

『百蟲譜』(奥本大三郎・編著 平凡社ライブラリー)を読み終えた。「虫文学アンソロジー」。ヘルマン・ヘッセの「クジャクヤママユ」が読みたくて、妹に借りたもの。面白くて全部読んでしまった。「クジャクヤママユ」はタイトルが違った気がするのだが、子どもの頃に学校の教科書で読んで以来、ものすごく好きな作品。最後の場面を思い返す度に、あまりの美しさにぞくぞくする。収められたどの作品も良くて、贅沢な本。身体に精神にしみわたるような、栄養になるような文章を久しぶりに読んだような気がする。それぞれの作品の解説というのかエッセーも面白くて、これが無ければこれほどまで気に入らなかったと思う。『蝗の大旅行』は本を持っているのだから、こんなに楽しい文章ならもっと早く読んでおくべきだった。共感をおぼえるのは広津和郎の「蚤と鶏」だけれど、全く共感しないというよりも不快感や嫌悪すら感じそうな、それでもぞっとして強烈だったのは志賀直哉の文章。田辺聖子も書いているように、解説と併せて読むから余計に興味深い。田中貢太郎も他の作品が読んでみたくなった。何度も読み返したくなりそうで、返したくないなあ。
百虫譜 (平凡社ライブラリー)