『ゆれる人魚』

ゆれる人魚』Córki Dancingu /(英) The Lure(アグニェシュカ・スモチンスカ Agnieszka Smoczynska)
http://d.hatena.ne.jp/tsubaqui/20160624#p1
http://d.hatena.ne.jp/tsubaqui/20170804#p1

何度書くのか、と、自分でも思うのだけれど、邦題ができたことも嬉しくて、ついまたDVDで見た。PCをただケーブルでTVに繋げば良いだけなのに面倒臭がってPCのモニタで見ていたのを、TVに繋いだらとてもきれいで、これまでPCのモニタで見て、好きだ好きだと騒いでいたことが申し訳なくなるくらいだった。TVの方が単純に縦も横も倍以上のサイズあるし。人魚の下半身の形も良いけれど、それだけでなく、ぬらぬらした質感もすごいし、歯などのメイクも安っぽくないし。何度見ても、素晴らしい。

ベーシストが酷いと何度も言いつつ、彼も若いしなんとなく責められないような気も若干しつつ、それでも人魚の持ち歌を歌うのとか無神経じゃないか? そういえば、彼って無神経。彼はSilverに恋をしても相手を人間と思っていない、もちろん人魚だから人間ではないのだけれど、彼はずっと人魚たちを自分とは違う生き物として、人魚に感覚や感情があるとは思っていないようなところすら感じられる。でも、相手を自分とは違う生き物だと感じるのは彼特有の事ではなく、わりと多くの男性の無意識に人間の女性に対する感覚とも言えるのでは。
Silverが魚の部分を手放して人間の下半身を手に入れるのも、性的なことに関しては、女性が(本人が自分の希望だと思い込んでいても)男性の欲望に沿ってしまいがちで、男性が女性の都合に合わせようとすることが少なく、肉体的にダメージを受けるのは大抵女性だという、人間と人魚の恋という形をとりつつ、人間の男女のたぶん今でもよくある問題を表している気がする。女性が監督だからいうわけではなく、とてもフェミニズムが意識されているのを感じる。クラブのオーナー(わりと好き)は、まだ2人が人魚だと知らないときは「大人のためのクラブに、なんで子どもが」などと言っていたのに、人魚だと知ると2人にストリップも含めたショウに出演させる。話の中の設定で2人が未成年かどうか、ということについては、人魚なのだし人間でいうと100歳以上だったりもするのではないのかしらとも思うけど、年齢の問題よりも、彼女らが人間でなく人魚だから。オーナーに「触るな」というGoldenが好き。Goldenは良い、本当に。

しばらく前に、古い雑誌の記事で、アンデルセンミソジニーについて書かれたものを見かけて、その雑誌を買わなかったので手許に無いし、どういう事が書かれていたのかすら記憶が無くて、あまり真剣に読んでいなかったので、そういわれればそうかもしれないなあと思ったような、それくらいなのだけれど、それも少し引っかかっているかもしれない。今は上手く表現できないものの、このキラキラした映画にはいくつもの深刻な問題が詰め込まれていて、見る度に心がざわついて頭がぐるぐるする。ポーランド語は全然分からないし、英語も怪しいから、日本語の字幕で見たい。そういえば、GoldenもSilverも、英語での名まえなので、日本語だと違うのかも。

人間と人魚の壁を乗り越えてしまった『スプラッシュ』のトム・ハンクスはすごかったんだな、なんて少し前に一人で勝手に盛り上がっていた。昔見たきりで、よくよく考えた末というのでなく、勢いで海に飛び込んだところもあったような気がするけれど、日本では女性が結婚したら当たり前のように夫の姓になって夫の家族の中へ一人で入ってその家の人になっていたような時代に、男性が全く未知の人魚の世界へ行ってしまうなんて。『スプラッシュ』のトム・ハンクスが今でも海中で幸せに暮らしていたら良いなあと思う。

次は別の事を書く。